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アグロフォレストリーを福祉に応用する

福祉農場は、シンプルに言えば高齢や障害によって心身にハンディを持つ方を対象とした農場です。農作業を福祉の現場に取り入れている団体は、私が知る限り30年以上前にはありました。福祉農場自体の研究もおこなわれており、岐阜大学には福祉農場研究会が活動しています。

 

障害といっても大変幅広く、福祉農場の目的やインフラは、受け入れる利用者によって大きく変わります。福祉という言葉の意味からしても、広義の意味でアグロフォレストリーを福祉農園に導入する目的は、農園の生産性よりも、利用者の「幸せ」を追求することにあると思います。

木の特性を福祉に活かす

樹木を農地に活かすアグロフォレストリーは、樹木の特性そのものが福祉の現場でも効果が期待できます。福祉農園では、アグロフォレストリーが樹木に求める「保護的」「生産的」役割のほかに、人を幸せにする「福祉的」な役割を持てる力があるのではないかと考えます。

・樹木は長く生きる

アグロフォレストリーを実践するうえで樹木を植えたとき、基本的に1年で根元から伐採することはありません。
小さな苗から植えて少しずつ育っていき、また立派に育つよう世話をしていく中で、おのずと愛着が生まれていきます。

1年生作物であれば1回の失敗でその作物の寿命が終わりますが、果樹は失敗しても来年またやり直しができます。

活かし続ける、自分も一緒に年を重ねていくことができる樹木は、精神面に良い影響を与えると思われます。

・樹木は動物を呼ぶ

アグロフォレストリーは、やり方によって自然の生態系により近い空間を造ります。いわばビオトープを形成します。小鳥や昆虫等の動物の住みかや通り道になり、豊かな自然環境を形成します。

・木陰を作る

陽射しが強い石垣島で、農作業の合間に木陰で取る休みは格別です。暑くカンカン照りの日中でも、木陰の涼しさは単に日射熱から逃げたという以上の快適さがあります。コンクリートの建物の陰に隠れることとは違う、ほっとするような優しい何かを感じることはないでしょうか?

畑で栽培できる野菜類には、日陰や半日陰を好むものがあります。木かげでできる農業は直射日光が厳しい沖縄では、人にやさしい形です。

動物をアグロフォレストリーに取り入れる

さらに動物を取り入れ、飼育することで精神的な癒しや作業範囲の拡大が考えられます。アニマルセラピーや動物介在療法という言葉は、今や広く知られるようになりました。

例えば農園を生垣で囲ったり家畜や飼育動物に与える飼料となる木を植え、動物を飼うという組み合わせが考えられます。沖縄県ではヤギの飼育が盛んで、抵抗なく導入できる動物です。牧草と違い、樹木は縦に伸びますので、飼料木から枝葉を採取するときは、立っている人は腰をかがめなくていいし、例えば車いすで移動しながら無理のない姿勢で枝を剪定することが出来ます。収穫した枝葉をヤギに自分の手から与えます。よほどのことがない限り飼いならされているヤギは差し出した枝葉を食べてくれるでしょう。神社でハトのエサを、奈良公園で鹿せんべいをわざわざ買ってまで与える行為、これを何というかは知りませんが、人々はこの行為に何らかの癒しを求めていることは間違いないようです。

ヤギは除草にも役立っています。農地で除草させる場合は、農作物を食べないよう工夫が必要になりますが、除草してもらい、肥料となるフンを生産し、そして沖縄では食用として出荷でき一石二鳥にも三鳥にもなります。最後に食べてしまう・・・というのは人によってかわいそう、ということになるでしょうが、人は多くの命をいただいて生かされているわけで、ヤギの飼い方、対象者、その土地の文化によって福祉農園にプラスとなるかマイナスになるか変わってくるでしょう。

こうした農園の中に樹木や動物が混在する形態をアグロフォレストリーでは、アグロ・シルボ・パストラル(AgroSilvoPastoral)と呼ばれる中に分類されます。

 

このようにアグロフォレストリーでは、農園に樹木や動物を取り入れることにより、より自然の生態系に近い空間が形成されます。森林セラピー、園芸療法、動物介在療法等様々なアプローチが一つの畑で実践できる身近な空間として、高齢者や障害者の福祉に役立てることができるのではないかと思います。


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